髪を切ればモテると信じる男

これですべてが変わる。
サラバ、昨日までの俺。
コンニチハ、新しい俺。


俺は調子がいい時は寝ない。
決意とかなしに、割とフランクな感じで6,70時間寝ないで遊び続けることがある。
そのタフネスぶりは俺の強みでもある。
最近、調子が悪くよく寝ていた。
しかし、昨日は調子が良かったので寝ないで済んだ。
その勢いをそのままに、9時半から髪を切りに行った。
こういうメンドクサイことは勢いに任せるのが一番だ。

店は土曜日ということもあってか、思いのほか混んでいた。
俺が店に入った時点で、雑誌を読んで待っている人が一人いたほどだ。
仕方なく俺も滑らかな曲線でデザインされた白いオシャレ椅子に座り、雑誌をペラペラ。

30分くらいで呼ばれた。
「どんな感じにします?」と美容師の兄さんが言う。
「思いっきり短く」と俺。
「イメージとしては?」と兄さん。
「う〜ん、中田ヒデみたいな感じで」と俺。
どの面下げて、そんなことが言えるのか?
そんな妄言を吐くのは、どの口だ!
俺が第三者として、この発言を聞いたら、後ろから首をめがけてドロップキックをかましているところだ。
兄さんもよく笑わなかったなぁ〜

カリスマが髪を切る。
カリスマはトークもカリスマ的だ。
「昔、東大和デニーズで網浜直子が西武の選手とデートしているのを見た」という話から始まった一連のトークは古館伊知郎もお手上げである。

そのあとはバイクの話。
スカイウェイブは性能がイマイチだと言う。
とりあえず、街中でズーマーに乗ってる女の子はなかなか悪くないという話で一致した。
最近、ピザ屋もズーマーで配達してるよね。


そのあとはケータイのゲームで「ドラクエ」か「FF」のどっちをダウンロードしようか迷っているという国を挙げて可及的速やかに対応しなければならない相談を受けた。

スピリチュアル・カウンセラーこと俺は心理学、文化人類学など様々な観点から多角的に考え、親身に相談に乗る。
しかし、ドラクエかFFかという論争は有史以来、人類が論じ続けているテーマだ。
シャンプーをしている短い時間では解決は困難だった。

 

ふと、目の前の鏡に目をやると中田がいた。
いや、メガネをかけてよく見たら、俺だ。
う〜ん、ナイスですねぇ〜
これはモテるに違いない。
やった、万歳!

う〜ん、ヒゲを伸ばしたいなぁ。
久しぶりに髪も染めたい。
そうすれば、トド並のハーレムが形成できるのに。
時期が悪かったなぁ。

 

中田が家に帰る。
玄関を開けると母がいた。
視線が頭にいったその刹那。
「ヘンな髪型」と一言。


これですべてが変わる。
サラバ、昨日までの俺。
コンニチハ、新しい俺。